契約はいつ成立するのか

「契約」とは”相対立する二つの意思表示の合致によって成立する法律行為”です。
既に何度かご紹介しているので、もう十分ですね。

 

さて、では「契約」が成立するのはどのタイミングでしょうか。
”契約書に署名したとき”ではありませんよ。前にもご紹介したとおり、契約書が無い契約も多数ありますので、これではないこともご理解いただけると思います。

 

答えは”二つの意思表示が合致したとき”です。

一番分かりやすいのは、一方が”売った”と「申し込み」を行い、他方が”買った”と「受諾」することで、お互いの意思表示が合致したときです。もちろん言葉ではなく「頷く」などの態度でも構いません。

ですので、厳密に言うと、口頭レベルや単に頷いただけであっても、いったんお互いその内容で合意したとみなされたあとは、原則として勝手に取り消すことはできません。
仮に「あれは冗談だった」とか「その場の雰囲気で」とか言い訳をしても、相手方が本気でその約束を信じて実行を迫ったとしたら、それを実行しないでいると「契約違反」になってしまいます。

くれぐれも、約束をする場合にはご注意願います。

 

もっとも、実行を迫る側もそれなりの証拠を示す必要が生じてきますので、仮に迫る側になりそうであれば、キチンと契約書を交わすとか証人を立てるなどの対策は講じておいたほうがよろしいでしょう。

 

このように、「申し込み」と「受諾」という二つの意思表示の合致によって「契約」は成立します。
ところで、両者とも相対していれば、その場で意思表示が合致したことが分かりますが、両者が遠隔地で離れていた場合にはどうなるのでしょう。
例えば、郵送のように、一方の意思表示が相手に伝わるまでに期間を要するようなケースです。

 

これは、どのように「申し込み」されたかによって変わってきます。

「申し込み」に回答期限が設けられていた場合には、その期限までに申込者に対して「受諾」したという通知が”到着した”ときです。

これに対して「申し込み」に明確な期限が定められていなかった場合には、「受諾」したという通知を”発信した”ときになります。

 

民法では、両者が意思の合致があったことが認識できてはじめて「契約」が成立するという趣旨のもと、申込者に対して「受諾」の旨が伝わった時点とされています。そうでないと、申込者側としては実際に「受諾」されたのかどうか認識できませんので。

回答期限をつけた「申し込み」の場合には、その期限までに「受諾」が来なければ、「拒否」されたとみなすことができますので、本趣旨にもとづき上記のように定められています。

ところが、期限を定めなかった場合、申込者は勝手に「拒否」されたとみなすことができず、むしろいつ「受諾」されても構わないと考えてるとみなされます。そこで、申し込まれた側が「受諾」した時点で「契約」を成立させたほうが、両者の意思を最大限尊重したことになるという訳です。

 

そんな細かいことは、別にどちらでもいいじゃないかと思うかもしれません。
ですが、なんらかの理由で「受諾」の通知が申込者に届かなかった場合に、このことが重要になります。

期限を定めた場合には、「受諾」が到着しなかったので「契約」は成立しません。
これに対して、期限を定めなかった場合には「受諾」した時点で成立しています。「受諾」がなかなか通知されてこないからといって、勝手に「拒否」されたと勘違いすると、実際には「契約」が成立しており、トラブルとなりますのでご注意ください。

 

さらにややこしい話になりますが、これが電子メールやインターネットでの申し込みだった場合には、相手に「受諾」の通知が届いた時点で「契約」が成立します。対面している場合と一緒という扱いなのです。
ですので、なんらかの通信障害で相手に「受諾」した旨が通知されなかった場合には、「契約」は成立しません。

 

こうしてみると、郵送等で期限を定めない「申し込み」の場合のみ特別扱いということですので、期限を定めて対応するのが一番いいということですね。