前回のコラムにて、「契約」とは”相対立する二つの意思表示の合致によって成立する法律行為”のことであると述べました。
ここで登場する「意思表示」というものについて、今回もう少し詳しく説明します。
おさらいですが、「意思表示」とは”何かをしたいという意思の表現”です。
この”何かをしたい意思”というのは、特に限定されるものではなく、一般的に要望して認められるような内容であれば構いません。
そして、この”何かをしたい”という意思を相手に伝えることが”意思の表現”ということになります。
ここで、”何かをしたい”という意思を相手に伝えるまでのプロセスを、少し深掘りして説明します。
STEP1:”○○したい”という意思を持つ
例えば、商品を見て「あの本を500円で買いたい」とか、「あの本を500円じゃなくて400円でなら買いたい」など、”○○したい”という意思を最初に持つことになります。
これを「効果意思」と表現します。
この「効果意思」ですが、内心で思うことですので、実際のところさまざまな「意思」が発現しています。そのなかで、実際に相手に伝えて実現させる目的をもった「意思」のみが「効果意思」として有効と考えられます。
STEP2:相手に「効果意思」の内容を伝えようと決意する
「効果意思」は、あくまでも内心での事象なので、「効果意思」そのものは本人にしかわかりません。実際に相手に対してその意思を認識してもらうためには、内心にある「効果意思」を相手に対して”表示”するという行為が必要となります。
この、相手に伝えようと決意することを「表示意思」といいます。
さきの例でいうと、「本を買いたいことを店員に伝えよう」と思うことが、それにあたります。
STEP3:実際に相手に「効果意思」の内容を伝える
「効果意志」を相手に伝えるためには「表示意思」を持つだけではダメで、実際に相手に伝える行為が必要です。
この、実際に相手に伝える行為のことを「表示行為」と呼びます。
さきの例でいうと、「この本を500円で売ってください」とか「この本を400円にまけてください」と店員に実際に伝える行為ですね。
この3つのSTEPを経て、実際に「効果意思」が相手に伝わる、すなわち「意思表示」がなされることになります。
ちなみに、本人以外からみれば「表示行為」の内容のみが「表示意思」として認識されるわけで、その「表示意思」が実際に「効果意志」と合致するものかどうかは、本人しか分かりません。
例えば、最初は「500円ではなく400円で買おう」と思っていたのに、「これください」としか店員に言わなかったとしたら、「表示意思」としては「500円で買う」と認識され、実際は「400円で買う」という「効果意思」だったことは、相手には伝わりません。
まあ当然ですね。
ところが、民法では実はこの「効果意思」のほうを重視します。
というのも、真の意思は「効果意思」だと考えられているからなのです。単に伝え方が悪かっただけであり、もともと「表示行為」で示された意思をもっていないというのがその根拠です。
そのため、場合によっては「効果意思」と「表示行為」とのズレにより、「意思表示」そのものが”無かったこと”になるケースもあります。
もちろん、その場合「契約」も”無かったこと”になってしまいます。
「契約」において、相手の意思表示が実際に「効果意思」どおりの内容なのかどうか、これを確認しながら「契約」をまとめることも重要なポイントなのです。
「実はそんなつもりじゃなかった」と相手に言わせないよう、ご注意ください。