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契約が無効になることもあります

これまで述べてきたように、「契約」は当事者間の合意によって成立します。
そしてこの合意内容は、当事者間で納得しているのであれば、原則としてどんなものでも構いません。
これを「契約自由の原則」といい、民法での基本原則のひとつとなっています。

ただし、以下のような場合には、当事者間での合意があっても”無効”となり、その「契約」は最初から成立なかったものとみなされます。

 

1)具体性に欠ける場合

客観的に見て、いつ何をすべきかが明確になっていない場合には、実際にその合意内容にもとづいて実施されたかどうかの判断がつきません。
例えば、”気が向いたら何かをあげる”というのは、いつ”気が向く”のかを客観的に判断することができませんし、”何か”という対象物も客観的に特定できません。
そうなると、仮に契約が実行されないからということで裁判所が強制力を発揮しようとしても、具体的に何をどう命令したらいいか分からない事態になってしまいます。

必ずしも厳密に内容を具体化しなくても構いませんが、慣例や法律その他一般常識をもって客観的に明確にできる内容であることが必要で、そうでない場合には、その合意は”無効”とみなされます。

 

2)実現可能性が無い場合

できないことを約束しても意味はありません。
例えば、”西から太陽が昇ったら、この財産を提供する”といっても、そもそも実現する訳がありません。
このように、絶対に起きないような内容をもって合意した場合には、その事実を知っていたか否かに関わらずその合意は”無効”とみなされます。

 

3)法律に反している場合

法律は”強行規定”と呼ばれるものと”任意規定”と呼ばれるものに分けられます。
”任意規定”は、その名の通り、その法律に従うかどうかを任意に選択できるというものです。
例えば「売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する」(民法第558条)と定められていますが、契約によりすべて買主負担とすることも可能です。
このように、”任意規定”であれば、「特約」という形で当事者間で違った内容に変更できます。

 

ところが、”強行規定”と呼ばれるものについては、当事者間で「特約」にて別の内容にすることはできず、仮に変更してもその内容は無効となります。
例えば「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない」(民法第147条)というものがあります。
時効とは、簡単に言うと一定期間放置しておくと、その契約内容を実行しなくてもよくなることで、例えば飲み屋のツケを払わずに1年間請求されないままだと、時効により払わなくてもよくなります。
これを、当事者間の合意により”時効を放棄します”と契約しても、”強行規定”に反するため無効になるのです。

また、一見すると法律を順守しているように見えても、その実態が”強行規定”に反した内容(いわゆる”脱法行為”)であれば、”無効”となります。

 

4)公序良俗に反している場合

例えば、”とある人物を殺したら報酬を支払う”という契約は、公序良俗に反しており”無効”となります。
「愛人契約」「奴隷契約」「とばくに供する金銭の借用契約」といったものも”無効”です。
逆に”覚せい剤を使用しなかったら報酬を渡す”というように、一見公序良俗に反していないものであっても、”覚せい剤の使用”という公序良俗に反した事項を含んでいるため”無効”となります。

このように、公序良俗に反した内容が含まれているものについては、”無効”となります。

 

以上のように、”無効”となる場合がありますので、有効に「契約」が締結できたかどうか専門家に確認をすることをお勧めします。

なお、上記以外であれば、一見荒唐無稽な内容であっても「契約」として有効となりますのでご注意ください。

 

 

 

「契約」には強制力があります

当事者間で合意して成立した「契約」

もしこれを守らなかったらどうなってしまうのでしょうか。
最初はその気があったけど、後で気が変わった場合には、無かったことにできるのでしょうか。

 

「契約」は、いったん成立すると、その時点から”強制力”を持つことになります。
この”強制力”は、法律に支えられています。
つまり、「契約」によって当事者に生じた権利については、法律が必ず実現することを保証し、逆に義務については、実施しなかった場合には罰せられるということです。

ですから、「契約」を守らなかった場合には、「法律」つまりそれを体現する「裁判所」によって実現を強制されるか、またはなんらかの代替手段を講じることが命じられます。加えて「債務不履行」などの理由により損害賠償をしなければならない事態に陥ります。

 

そして、いったん成立した「契約」は、特定の条件を満たさない限り勝手に解除することはできません。
「契約」の時点で、相手はそれを実行することを期待している訳で、その期待を裏切ることは「信義誠実」に反するという理由です。これは「信義誠実の原則」といい、民法の重要な原則のひとつです。
気が変わったとか、当初と事情が変わったとか、その程度の自分勝手な理由では、簡単に「契約」を解除することはできません。

もちろん解除ができない訳ではないのですが、客観的に見て妥当と思われる相当な理由が必要です。

 

では、相手が「契約」を守らなかったときに、”どうせ裁判所の力で実施が強制されるのだから”と自力で強制してもいいのでしょうか。
例えば、”なかなか借金を返してくれないから、相手から無理やり借金相当の金額を奪い取る”なんてことは、これは認められません。

法律で保護された権利だからといって、権利者が義務者に直接強制することは「自力救済」と呼ばれ禁止されているのです。
まあ簡単に言うと、勝手に自分でそうした行為をすることを認めてしまうと、「力が正義」という風潮になってしまい社会の秩序を維持するのが大変になるから、ということです。
ですので、強制力を行使するのは、法律にもとづき権威のある裁判所が行うものとされている訳です。

 

余談ですが、家賃を払わないからといって契約を解除し、勝手にアパートの扉の鍵を付け替えると、「自力救済」とみなされて、大家さんは賃貸人から訴えられれば損害賠償を支払うことになります。
ですので、その場合大家さんは、契約の解除とともに裁判所に訴え、強制退去してもらうよう主張しなければならないのです。

 

ただし、裁判所が「契約」にもとづき強制力を行使するためには、まずどのような「契約」だったかを判断することになります。その判断を行ううえでは客観的な証拠が必要となります。
「契約書」は、そういう場面で重要な証拠として扱われます。

大事な約束は「契約書」にするのが一番ということですね。

 

 

 

契約はいつ成立するのか

「契約」とは”相対立する二つの意思表示の合致によって成立する法律行為”です。
既に何度かご紹介しているので、もう十分ですね。

 

さて、では「契約」が成立するのはどのタイミングでしょうか。
”契約書に署名したとき”ではありませんよ。前にもご紹介したとおり、契約書が無い契約も多数ありますので、これではないこともご理解いただけると思います。

 

答えは”二つの意思表示が合致したとき”です。

一番分かりやすいのは、一方が”売った”と「申し込み」を行い、他方が”買った”と「受諾」することで、お互いの意思表示が合致したときです。もちろん言葉ではなく「頷く」などの態度でも構いません。

ですので、厳密に言うと、口頭レベルや単に頷いただけであっても、いったんお互いその内容で合意したとみなされたあとは、原則として勝手に取り消すことはできません。
仮に「あれは冗談だった」とか「その場の雰囲気で」とか言い訳をしても、相手方が本気でその約束を信じて実行を迫ったとしたら、それを実行しないでいると「契約違反」になってしまいます。

くれぐれも、約束をする場合にはご注意願います。

 

もっとも、実行を迫る側もそれなりの証拠を示す必要が生じてきますので、仮に迫る側になりそうであれば、キチンと契約書を交わすとか証人を立てるなどの対策は講じておいたほうがよろしいでしょう。

 

このように、「申し込み」と「受諾」という二つの意思表示の合致によって「契約」は成立します。
ところで、両者とも相対していれば、その場で意思表示が合致したことが分かりますが、両者が遠隔地で離れていた場合にはどうなるのでしょう。
例えば、郵送のように、一方の意思表示が相手に伝わるまでに期間を要するようなケースです。

 

これは、どのように「申し込み」されたかによって変わってきます。

「申し込み」に回答期限が設けられていた場合には、その期限までに申込者に対して「受諾」したという通知が”到着した”ときです。

これに対して「申し込み」に明確な期限が定められていなかった場合には、「受諾」したという通知を”発信した”ときになります。

 

民法では、両者が意思の合致があったことが認識できてはじめて「契約」が成立するという趣旨のもと、申込者に対して「受諾」の旨が伝わった時点とされています。そうでないと、申込者側としては実際に「受諾」されたのかどうか認識できませんので。

回答期限をつけた「申し込み」の場合には、その期限までに「受諾」が来なければ、「拒否」されたとみなすことができますので、本趣旨にもとづき上記のように定められています。

ところが、期限を定めなかった場合、申込者は勝手に「拒否」されたとみなすことができず、むしろいつ「受諾」されても構わないと考えてるとみなされます。そこで、申し込まれた側が「受諾」した時点で「契約」を成立させたほうが、両者の意思を最大限尊重したことになるという訳です。

 

そんな細かいことは、別にどちらでもいいじゃないかと思うかもしれません。
ですが、なんらかの理由で「受諾」の通知が申込者に届かなかった場合に、このことが重要になります。

期限を定めた場合には、「受諾」が到着しなかったので「契約」は成立しません。
これに対して、期限を定めなかった場合には「受諾」した時点で成立しています。「受諾」がなかなか通知されてこないからといって、勝手に「拒否」されたと勘違いすると、実際には「契約」が成立しており、トラブルとなりますのでご注意ください。

 

さらにややこしい話になりますが、これが電子メールやインターネットでの申し込みだった場合には、相手に「受諾」の通知が届いた時点で「契約」が成立します。対面している場合と一緒という扱いなのです。
ですので、なんらかの通信障害で相手に「受諾」した旨が通知されなかった場合には、「契約」は成立しません。

 

こうしてみると、郵送等で期限を定めない「申し込み」の場合のみ特別扱いということですので、期限を定めて対応するのが一番いいということですね。

意思表示ってなんですか

前回のコラムにて、「契約」とは”相対立する二つの意思表示の合致によって成立する法律行為”のことであると述べました。
ここで登場する「意思表示」というものについて、今回もう少し詳しく説明します。

 

おさらいですが、「意思表示」とは”何かをしたいという意思の表現”です。
この”何かをしたい意思”というのは、特に限定されるものではなく、一般的に要望して認められるような内容であれば構いません。
そして、この”何かをしたい”という意思を相手に伝えることが”意思の表現”ということになります。

 

ここで、”何かをしたい”という意思を相手に伝えるまでのプロセスを、少し深掘りして説明します。

 

STEP1:”○○したい”という意思を持つ

例えば、商品を見て「あの本を500円で買いたい」とか、「あの本を500円じゃなくて400円でなら買いたい」など、”○○したい”という意思を最初に持つことになります。
これを「効果意思」と表現します。

この「効果意思」ですが、内心で思うことですので、実際のところさまざまな「意思」が発現しています。そのなかで、実際に相手に伝えて実現させる目的をもった「意思」のみが「効果意思」として有効と考えられます。

 

STEP2:相手に「効果意思」の内容を伝えようと決意する

「効果意思」は、あくまでも内心での事象なので、「効果意思」そのものは本人にしかわかりません。実際に相手に対してその意思を認識してもらうためには、内心にある「効果意思」を相手に対して”表示”するという行為が必要となります。
この、相手に伝えようと決意することを「表示意思」といいます。
さきの例でいうと、「本を買いたいことを店員に伝えよう」と思うことが、それにあたります。

 

STEP3:実際に相手に「効果意思」の内容を伝える

「効果意志」を相手に伝えるためには「表示意思」を持つだけではダメで、実際に相手に伝える行為が必要です。
この、実際に相手に伝える行為のことを「表示行為」と呼びます。
さきの例でいうと、「この本を500円で売ってください」とか「この本を400円にまけてください」と店員に実際に伝える行為ですね。

 

この3つのSTEPを経て、実際に「効果意思」が相手に伝わる、すなわち「意思表示」がなされることになります。

 

ちなみに、本人以外からみれば「表示行為」の内容のみが「表示意思」として認識されるわけで、その「表示意思」が実際に「効果意志」と合致するものかどうかは、本人しか分かりません。

例えば、最初は「500円ではなく400円で買おう」と思っていたのに、「これください」としか店員に言わなかったとしたら、「表示意思」としては「500円で買う」と認識され、実際は「400円で買う」という「効果意思」だったことは、相手には伝わりません。
まあ当然ですね。

 

ところが、民法では実はこの「効果意思」のほうを重視します。
というのも、真の意思は「効果意思」だと考えられているからなのです。単に伝え方が悪かっただけであり、もともと「表示行為」で示された意思をもっていないというのがその根拠です。
そのため、場合によっては「効果意思」と「表示行為」とのズレにより、「意思表示」そのものが”無かったこと”になるケースもあります。
もちろん、その場合「契約」も”無かったこと”になってしまいます。

 

「契約」において、相手の意思表示が実際に「効果意思」どおりの内容なのかどうか、これを確認しながら「契約」をまとめることも重要なポイントなのです。
「実はそんなつもりじゃなかった」と相手に言わせないよう、ご注意ください。

 

「契約」とはなんですか?

「契約」とはなんでしょうか。

 

すぐにイメージされるのは、相手方とのなんらかの取り決めを書面にした「契約書」の存在だと思います。なかには「契約書」そのものが「契約」だと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
そうしたイメージから、「契約」とは普通の生活においては縁遠いものという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

もちろん「契約書」は「契約」における重要な位置を占めるものではありますが、「契約書」イコール「契約」ではありません。
むしろ「契約書」の形式をとっている「契約」のほうが世の中には少ないかもしれません。

 

例えば「売買契約」

普通にコンビニなどで買い物をしますが、これは法律上「売買契約」にもとづく取引です。
物品と代金をその場で交換しているため「契約」を意識することがありませんが、法律上での観念では、その場で「契約」を締結し即時に履行(契約にもとづく義務を果たすこと)したとみなされます。

同じ「売買契約」でも、土地の売買のように規模が大きくなると「売買契約書」の形を取ることが通常ですが、これも別段「契約書」が無いと土地の売買が成立しない訳ではありません。
もっとも、土地などの場合には、別の理由で「売買契約書」が必要になってくるのですが、それでも「契約書」が無いから「売買契約」が無効だということにはならないのです。

 

また、よく引き合いに出されるのが「口約束」です。
これも「契約書」があるわけではありませんが、約束を守らないと、場合によっては「契約」の不履行とみなされて、損害賠償を支払うことになることもあります。

 

このように、「契約」と「契約書」はイコールではないばかりか、実は身近な存在なのです。そして現代社会を成り立たせているものが「契約」と言って過言ではないほど、重要な存在でもあります。
では改めて「契約」とはいったいなんでしょうか。

 

「契約」とは、”相対立する二つの意思表示の合致によって成立する法律行為”のことを指します。

「相対立する二つの意思表示」というのは、簡単に言うと「こうしたい」という意思の表現(これを「申し込み」といいます)と、それに対する「わかりました、それでいいですよ」という意思の表現(これを「承諾」といいます)のことを指します。

コンビニでの買い物の例でいえば、客側の「この商品をこの代金で買いたい」というのが「申し込み」、コンビニ側の「いいですよ、売ります」というのが「承諾」にあたります。
実際には、コンビニのレジで上記のようなやり取りがある訳ではないですが、客が商品を手にとってレジに持っていくという行為は「申し込み」の意思を表しているとみなされ、コンビニ側がレジ打ちの作業を始める行為は「承諾」の意思を表しているとみなされます。このように、必ずしも「言葉」で意思を示さなくても、所定の行為をすればその意思があるとみなされます。

 

そして「法律行為」とは、少々説明が難しい概念ですが、ざっくりというと”法律上の権利義務を発生させること”とお考えください。

コンビニの例でいうと、客は「商品を引き渡してもらう」という権利を得ることになり、コンビニ側は「商品を引き渡さなければならない」という義務を負うことになります。「売買契約」の場合には、同時にコンビニ側に「代金を受け取る」権利、客側に「代金を支払わなければならない」という義務もそれぞれ発生します。

 

このように、一方の「申し込み」という意思表示に対して、他方の「承諾」という意思表示が合致して、その結果、合致内容に沿った一定の権利義務が発生すること、これが「契約」ということになります。
また、「契約」には、原則として特に書面での約束などの形式を問われないということも重要です。

 

なにやらややこしい説明となってますが、「契約」の基本を理解するうえで、まずはこの点をご理解いただければと思います。