契約は、いったん締結したらもはや取り消すことはできないのでしょうか。
結論から言うと、一定の条件が揃えば取り消すことができます。
ただし、もともと契約の成立そのものに疑問があるようなケースに限り認められています。
まあ、簡単に取消ができてしまうようでは、そもそも安心して契約などできませんから、当然と言えば当然ですね。
では、どのような場合に認められているかと言うと、大まかに以下のケースに限定されています。
■詐欺、強迫による契約の場合
契約そのものが、相手の詐欺や脅迫によって締結されたものである場合には、詐欺だと気付いた時点あるいは強迫から逃れた時点から一定の期間内であれば、契約そのものを取り消すことができます。
契約そのものが、お互いの正常な判断のもと締結されたとは言えず有効とは言えない訳で、詐欺もしくは脅迫の被害者に、契約そのものを無かったことにする権利を与えているのです。
ただし、詐欺もしくは脅迫した相手と自分以外に、そのことを知らない第三者が関与していた場合には、取り消せる範囲に制約を受ける場合があります。
■行為能力制限者が行った契約の場合
行為能力制限者というのは、その人だけでは契約などの法律行為が安心して行えないだろうと判断される人のことで、例えば未成年者、痴呆症などで正常な判断が困難な方などが該当します。
これらの方々を保護する立場の人は、必要に応じて、自らが保護する行為能力制限者が行った契約を取り消すことができます。
そもそも、満足に契約内容を理解しての締結か怪しい訳で、行為能力制限者の権利を保護するために、保護者に取り消す権限を与えているのです。
■その他特殊なケース
特別に法律によって定められている取消要件に一致する場合に認められる特殊なケースがいくつか存在します。
例えば、「書面によらない贈与契約」の場合、贈与者はまだ贈与していない分については、自分の都合のみで取り消すことができます。つまり「これ以上はもうあげない」と勝手に決めることができるのです。
ただし、キチンと契約書なりの書面で約束してしまっていた場合には、勝手に取り消すことができませんので、貰う側はやはり契約書の形にしておけば安心です。
ここまで読まれて、上記以外にもいろいろ契約を取り消している場面、例えば”レストランの予約の取消”とか、”通信販売で購入した商品の返品”とか、これらは該当しないのか、という疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。
これらも一般には「取消」という言葉を使いますが、法律的には「解除」もしくは「撤回」といい、「取消」とは区別しております。
この区別は各々の法律的な性質の違いによるもので、最も大きな違いは、「取消」は原則として相手の同意を必要としないのに対して、「解除」「撤回」は同意を必要とするものです。
また、それ以外にも細かい差異があります。
次回、その点をもう少し掘り下げてご紹介します。