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融資支援ツールとしての「知的資産経営」

知的資産経営の最後の活用方法は「融資支援ツール」としての活用です。

 

ここで最初にお断りしておきますが、知的資産経営をしているからといって融資を保障するものではありません。時おり、知的資産経営によって確実に融資が得られるとか増資ができるとか、過大な期待を持たれる方もいらっしゃいますが、あくまでも融資なり増資を計画する際に役立つという意味合いです。

 

もともと知的資産経営は、設備や金融資産、人件費といった財務情報からは分からない、”のれん”や”ブランド価値”などといういわゆる「非財務情報」を客観的に評価できないかという視点からも研究されてきました。

 

かつては企業の利益の源泉は財務情報を見ればある程度判断できました。

ところが近年では、そうした財務情報からは推し量れない企業の成長性をより具体的に把握したいというニーズが高まっています。

例えば投資家の場合、より成長性の高い企業に投資することで、高いリターンを期待することができます。また金融機関の場合、どの程度までなら融資をしても安全に回収できるのかを判断することができます。そうした背景から、「非財務情報」を客観的に評価できるツールとして知的資産経営が注目され始めているのです。

 

特に知的資産経営報告書は、企業の沿革、理念から、知的資産をもとにした価値創造ストーリー、財務との連動、および今後の取り組みと課題などがある程度客観的に把握でき、投資家や金融機関が求めている情報が網羅されています。

 

この知的資産経営報告書をもとに、投資家向けにIR情報という形で公開することで、株式等の投資の判断材料を増やすことができ、結果としてより多くの投資を得られる可能性が高くなります。

また、金融機関への融資の際に知的資産経営報告書を添付することで、非財務情報という形で現状の財務情報を補完し、より有利な融資を受けやすくすることが期待できます。

 

もちろん最終判断は投資家であり金融機関ですので、こうした非財務情報の提供で確実に融資なり増資が実現できる訳ではないことはご留意ください。

あくまでも企業の成長性に客観的な説得性を持たせるツールですので、過大な期待をせず、適切に活用することが肝要です。

 

 

 

人材獲得ツールとしての「知的資産経営」

知的資産経営の3つめの活用方法は、「人材獲得ツール」としての活用です。

 

大手企業であれば、さまざまな情報発信やメディア等を通じて、企業のブランドイメージがある程度確立されています。

そのため、これから就職を考えている学生等にとっては、その企業がどんな取り組みをしていて、どういう人材を求めているのか、就職すればどんな仕事が待っているのかといった情報もある程度得ることができます。

 

ところが、中小企業の場合には、まずそもそも認知されていないことも多く、また、どんな企業なのか具体的な情報を入手すること自体が難しいのが実情です。

企業側にしても、そうした就職を考えている学生等に対して、どんな情報を発信すればいいのか自体掴み切れていないことも多々あります。

 

一般に就職を考える学生等の方々は、就職に際し、単に給与水準だけではなく、福利厚生、仕事のやりがい、教育制度といった点も検討材料にしています。

自分が就職してからどのように成長していけるのか、どんな保障をしてもらえそうか、そして仕事にやりがいを感じられるのかといった点が気になる訳です。

就職する側としては、自分の人生の大半を賭けることになる訳ですから、そうした点を踏まえできるだけ安心できる企業に就職したいと思うのも当然です。

 

ところが、中小企業の場合、一般的に給与水準と募集する職種くらいしか情報がないことが多く、そうなるとより情報が露出されている大手企業に流れていくのも仕方がありません。

ましてや、中小企業の場合、十分な福利厚生がないなどのマイナスイメージを持たれることも多いのが、それに拍車をかけています。

 

ですが、そうした福利厚生や給与水準ばかりで就職先を決めている訳ではないため、例えば企業理念に共感でき、自分がやりたいと考えている仕事ができ、従業員を大切にする企業だと分かるのであれば、十分選択肢に加えてくれます。

さらに、今後の企業自身の成長性や発展も見えているのであれば、就職したいと考える学生等も少なくないのではないかと思われます。

 

そうした学生等に対し、適切な情報を発信するうえで知的資産経営が役に立ちます。

 

企業理念、企業としての強みは何か、従業員がどういう仕事をして活躍しているのか、どんな福利厚生、教育制度があるのか、今後企業がどういう方向に向かい成長していくのかといった情報は、すべて知的資産経営に基づく分析の過程で明確化されています。

あとはそれを就職を検討している学生等向けに適切に発信すればいいだけです。

 

逆に、企業側にしても、今後どういう人材を求めるべきかが明確化されるので、どこに対してリクルート活動をすれば求める人材にアピールできるのか、より具体的に取り組むことも可能となります。

 

このように、知的資産経営を人材獲得ツールとして活用することで、よりよい人材を得て企業を発展させることに繋がります。

 

 

 

情報発信ツールとしての「知的資産経営」

知的資産経営のふたつめの活用方法は、「情報発信ツール」としての活用です。

特に知的資産経営報告書の形にまで具体化できているのであれば、より活用の幅が広がります。

 

もともと知的資産経営はマネジメントツールとしての効果が期待されて発展してきた側面が大きいのですが、副産物として自社の「強み」が見える化される訳です。

「強み」が分かれば対外的なアピールもしやすくなることから、情報発信の際の元ネタとして知的資産経営での成果物を用いることは当然といえば当然のことです。

 

 

具体的な活用方法をいくつかご紹介します。

 

ひとつ目はプロモーション活動への適用です。

自社サイト、カタログ、パンフレット、チラシ、街頭宣伝など、どのような媒体や方法を活用しても構いませんが、ただ漫然と抽象的に自社の商品・サービスを宣伝するよりも、具体的になにがいいのか、そして競合他社の商品となにが違うのかなどを明確にアピールすることができますので、より高いプロモーション効果が期待できます。

そして、その宣伝内容については知的資産経営の成果でもあることから、それが提供できる背景も熟知しており、自信をもった説明により説得力を持たせることにも繋がります。

 

また、説明内容にとどまらず、どういうプロモーションを行えばより効果的に「強み」を理解してもらえるかといったプロモーション戦略の立案にも応用できます。

 

 

ふたつ目は、企業イメージの向上、ブランド化への適用です。

企業そのものの強みや取り組み、理念などが明確になっていますので、それを活用していかに企業イメージを高めていくのかということを検討し取り組んでいくことが可能となります。

その取り組みの一環で、自社製品のブランド化の推進も行うことができます。

 

こうした企業イメージの向上やブランド化の推進により、さらにプロモーション効果を向上させるといった相乗効果も期待できます。

 

 

最後にご紹介するのは、取引先への情報開示によるより強固な関係づくりや新規開拓という活用方法です。

自社の「強み」が分かっていますので、それを取引先にアピールすることで、これまで以上に信頼を得やすくなりますし、相対的な立場の向上を図ることもできます。

また、新規開拓の際にも、自社と取引を持つメリットを説明しやすいことから、比較的良好な関係を造りやすいといえます。

 

「強み」を活かす取引先はどこか、といったアプローチも可能ですので、現在の「強み」を活かし強化することにも繋がります。

 

 

このように、知的資産経営を行うことで、効果的な情報発信を行うことが可能となり、対外的にも様々な効果が期待できます。

特に知的資産経営報告書を作成し具体的に表現可能な形にしておくと、簡単に情報開示を行うことができますので非常に便利です。

知的資産経営報告書の作成に興味のある経営者の方は、当事務所にご相談ください。

 

 

 

マネジメントツールとしての「知的資産経営」

これまで知的資産経営について、どのようなものであるのかをざっくりと紹介してきました。

では、知的資産経営は、企業にとって具体的にどのように活用できるのでしょうか。

 

ひとつめは、「マネジメントツール」としての活用です。

 

自社の企業活動そのものを「価値創造ストーリー」という形で”見える化”している訳なので、企業内のどの活動がどのように利益に繋がっているか、あるいは繋がっていないのかが把握できます。

ということは、これまで当たり前と思って行ってきた活動が実はムダな活動だったとか、前後の関係をみて、よりよいやり方を考えるなどのアクションに繋がっていき、結果として、経営や業務の効率化、カイゼンといった活動に発展していくことが期待できます。

 

また、現在顧客に提供している価値をさらに強め利益を向上させるにはどうすればいいのかを検討することも可能です。
現在行っている活動を強化するもよし、新たな活動を追加するもよし、それにより「価値創造ストーリー」が強化されるよう工夫すればいいのです。

 

さらに、環境の変化によりこれまでの「価値創造ストーリー」では十分な”価値”が提供できない事態に陥ったとしても、どこをどう変えればいいのかを検討することもできます。

 

このように、知的資産経営を「マネジメントツール」として活用することにより、自社の「強み」をさらに強化したり、効率化を図ったり、さらには環境の変化に対応したりといったことが比較的容易に行えるのです。

 

 

別の活用方法として、社内教育や従業員のモチベーション向上にも活用することもできます。

「価値創造ストーリー」から、従業員に対してどのような技術ノウハウを習得してもらえばいいのかが分かりますし、これを共有することで従業員自身に考えてもらうことも可能です。

また、企業としての取り組みや価値を従業員に伝えることで、従業員の企業に対する理解を深めてもらうとともに、自分のやっている仕事の意味が把握でき、そのことがモチベーションの向上に繋がっていくのです。

こうして従業員との結束を固め、よりよい経営体制へと変えていくこともひとつの活用方法となります。

 

 

「事業承継」にも活用できます。

後継者は、企業活動そのものを表現している「価値創造ストーリー」を把握することで、企業の全体像を的確に把握することができるようになります。

そのうえで、事業を継ぐ前になにを理解し学んでおかなければならないのか、そして事業を継いだ時になにに気をつけなければならないのか、などの必要事項を漏れなく対処することができるため、スムーズにかつ短期間で引き継ぐことを可能となります。

 

 

もともと知的資産経営が生まれた背景のひとつに「マネジメントツール」としての活用が期待されていたこともあり、上記のように幅広く企業活動に応用され効果を発揮するツールとして用いられることが多いです。

 

上記のことでお悩みの企業は、ぜひ「知的資産経営」に取り組まれてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

企業のあるべき姿と「知的資産」

「知的資産」は、企業の利益を生み出す源泉です。

もう少し詳しく説明すると、「企業理念・方針」>「マネジメント」>「技術・ノウハウ」>「製品・サービス」に至る一連の「知的資産」によるストーリーによって生み出され提供される”価値”が、企業に利益をもたらすということです。

ということは、企業は自社の保有する「知的資産」がキチンとストーリー上に配置され効果を及ぼしている状態が理想的といえます。

 

ところが、現実にはストーリーに乗れていない「知的資産」が点在しているケースも見受けられます。

せっかくの「知的資産」を活かしきれていない”宝の持ち腐れ”状態にある訳です。

なぜそのような状態になってしまうのかについては様々な原因が考えられますが、一番大きいのは”それを「知的資産」と気づいていなかった”、もしくは”重要な資産と考えていなかった”という点ではないかと思われます。

 

「知的資産」は、それ自身が「資産」であることがなかなか気づきにくいものです。

そのため、特に「知的資産経営」を意識せず経営している場合には、企業活動の過程で生み出される「知的資産」が徐々に繋がりストーリー化されていくなかで、うまく繋がらず単発で残ってしまうものが散在することになりやすいのです。

 

限られた有形資産で勝負をする中小企業にとっては、「知的資産」はもっとも重要な資産といえます。

そう考えると、”宝の持ち腐れ”となっている「知的資産」は、キチンと有効活用できるよう、現状の「知的資産」ストーリーに組み込むことを検討することが大切です。

そしてそのことにより、よりよい”価値”を提供できるようになることが期待でき、結果として更なる利益の創出に繋がる可能性があります。

 

また、その「知的資産」に関する活動は、いままでは利益に直結しないある意味無駄な活動だった訳で、これを活用できるようにすることで社内での業務効率化の促進にも繋がります。

 

このように、保有するすべての「知的資産」が、”価値”を生み出す「知的資産」ストーリー上に配置され最高のパフォーマンスを得られる状態こそが、企業としてのあるべき姿と考えます。

そのためにも、自社にある「知的資産」の棚卸とそれを繋ぐストーリー、そしてそこから生み出される”価値”をしっかり整理、分析することが大切です。

 

そして、整理、分析した結果を「知的資産経営報告書」の形にまとめ上げておくと、その後のマネジメント、プロモーションその他様々な企業活動に大いに役立ちます。

 

次回以降は「知的資産経営」および「知的資産経営報告書」の具体的な活用方法をご紹介いたします。

 

 

 

「知的資産」の”見える化”

これまで「知的資産」とはどのようなものかを述べてきましたが、当事者である企業自身および第三者からみて、その企業にどのような「知的資産」があるのかが分からなければ意味がありません。

 

「知的資産」を”見える化”するひとつの方法に、「知的資産経営報告書」という形にまとめるというものがあります。

 

「知的資産経営報告書」は、企業の「知的資産」およびそのストーリー、KPIを用いた指標や今後の経営戦略までを網羅した、「知的資産」を用いてどのように企業が利益を生み出し今後どのように発展していこうとしているかを把握できる報告資料です。

経済産業省の「知的資産経営ポータル」サイトに掲載されている「知的資産経営の開示ガイドライン」等によると、概ね以下の構成を想定しております。

 

●企業概要、沿革
●経営理念
●製品・サービス概要
●知的資産(製品、技術、マネジメント)、およびストーリー(現在)
●評価指標、業績との関連性
●将来に向けた取り組み、今後の事業展開

 

最初の3つは、企業の全体像が把握できるようにするためのものです。

「知的資産およびストーリー」の部分で、企業にある「知的資産」とそれが利益を生み出すための一連のストーリーを分かりやすく解説することになります。

 

「評価指標、業績との関係」の部分で、「知的資産」を客観的に評価し、また「知的資産」が利益を生み出していることを裏付ける資料をつけることで、先に述べた「知的資産」の価値の妥当性を記しています。

 

最後に「将来に向けた取り組み、今後の事業展開」で、今後の企業の方向性を表しています。

 

 

このような形で企業の「知的資産」とそれが利益を生み出す仕組みを記すことで、企業自身および第三者が客観的に把握することを可能とします。

 

なお、「知的資産経営ポータル」サイトには、さまざまな「知的資産経営報告書」の公開事例が掲載されておりますので、興味のある方はいちどご覧になってみてください。

「知的資産経営ポータル」サイトは、当事務所サイトのリンク集に掲載しております。

 

 

 

「知的資産経営」における評価指標

「知的資産経営」とは、企業の利益の源泉となる”強み(知的資産)”、その”強み(知的資産)”を生み出すストーリーをキチンと把握し効果的に活用することで、よりよい経営を実現していくものです。

さて、この”強み”ですが、誰からみても”強み”と思ってもらえるものでなければいけませんが、もうひとつ「どの程度」強いのかという点も重要になってきます。

というのも、”強み”が競合他社との優位点にならなければ、利益の源泉とは成り得ないからです。

ということは、その”強み”が競合他社を基準とした場合にどの程度の強さを持つのか、ということがある程度客観的に見えることが必要なのです。

 

例えば、同種製品で市場シェアが60%の商品Aと30%の商品Bでは、商品Aを提供する企業のほうが明らかに優位です。

ですので、その企業は”他社より圧倒的な市場シェアをもつ商品”という”強み(知的資産)”をもち、その度合は数値で測ることが可能です。

 

ところが、”他社よりも優れた営業力”という”強み(知的資産)”を考えてみましょう。

これを競合他社と比較して、どう評価すればいいのでしょうか。

”うちには営業が他社より2倍いるから”といったところで、あまり有能でない営業が2倍いても”強み”とはいえませんよね。むしろ半分しかいない他の企業のほうに優秀な営業が揃っていたら、どちらに営業力があるのか分かりません。

 

 

このようなときに役に立つのがKGI(key goal indicator:重要目標達成指標)、およびKPI(key performance indicator:重要業績評価指標)です。

KGI、KPIともに、もともとは企業目標やビジネス戦略を実現するために設定した具体的な業務プロセスの達成度合いを評価するための指標として用いられるものです。KGIは目標達成の成果を定量的に表すのに対し、KPIはその過程の達成度合いを定量的に測定するために用いられます。

 

具体的には、「利益拡大」という企業目標があった場合に、KGIとしては「売上高」「利益率」「成約件数」など、KPIとしては「顧客訪問回数」「解約件数」「注文件数」などが挙げられます。

それらの指標が具体的にどういう数値になるべきかを決めることが、間接的に企業目標の達成条件、および達成するための進展度合いの評価基準を決めることになります。

もちろん1つだけに限定する必要はなく、むしろ複数の指標を組み合わせ評価するほうが、いくつかの角度から見ることができるので、望ましいです。

 

 

「知的資産経営」でも、このKGIとKPIを活用することで、先ほどの”他社よりも優れた営業力”という”強み(知的資産)”を間接的に評価することが可能となります。

商談を発掘し獲得(成約)することが営業の目的です。ですので、例えば「受注率」「成約率」などがKGIとして挙げられ、「1日あたりの顧客訪問数」「商談化数」「商談進展率」などがKPIとして挙げられます。

 

そして大切なことは、これを競合他社と比較できるようにすることです。

もちろん他社の情報を漏れなく把握することは難しいですが、外から見える範囲でもある程度推測できるものです。

こうすることで、「どの程度」強いのかを、ある程度客観的に見えるようにすることが可能となります。

 

”強み(知的資産)”を具体的に評価するには、KGI、KPIを活用しましょう。

 

 

 

「知的資産経営」はストーリーが重要

「知的資産」は、ざっくり言うと”企業の利益を生み出すもととなる強み”ですが、いきなり生み出されるわけではなく、そのもととなるモノがあります。

そして大抵は、そのモノも「知的資産」と呼べるモノだったりします。

 

例えば、”耐久性が他社製品の2倍”という製品があった場合、その強みとなる耐久性を実現できる”製造工程”なり”技術”を持っているはずで、これもまた「知的資産」です。

さらに、その”製造工程”や”技術”を蓄積できたなんらかの要因があるはずで、とある従業員が研修会等に通って習得してきたのだとすれば、そういう”研修会などに積極的に通わせた”というマネジメントが「知的資産」となり得ます。

そして、そもそも研修会に通わせたのは、事業主の意向であり、耐久性を向上させるためのノウハウが欲しいと思ってたとすると、なぜ耐久性を向上させることを考えたか、という部分に会社としての方針を伺うことができます。

 

このように、とある「知的資産」が存在するためには、それが生み出されるまでの一連の流れ=ストーリーが必ず存在するのです。

そしてその起点は、事業主の意向すなわち企業としての理念や方針であることがほとんどです。

 

この、企業理念・方針>マネジメント>技術・ノウハウ>製品・サービスまでの一連のストーリーを見つけ出すことが、企業の「知的資産」を正しく理解するうえでとても重要です。

 

その理由は大きく2つあります。

 

第一に、気がつかなかった「知的資産」を見つけ出すことができるという点です。

「知的資産」は、例えば製品の特長など、大抵は分かりやすいものから見つかります。逆にマネジメント系は気がつかないことが多いものです。

理由は簡単です。その企業にとって当たり前のことをしているだけですから、そのマネジメントが「知的資産」だとは気がつかないのです。

これを、製品の強みから「何故これが強みになっているのか」という問いかけを繰り返すことで、それを生み出すマネジメントまでさかのぼることができます。

そこで初めて、そのマネジメントが「知的資産」だと気付くことができる訳です。

 

第二に、「知的資産」を正しく維持、強化できるという点です。

先の例で、例えば経費削減と称して研修会への参加を自粛することにした場合、”技術”を維持できなくなり、次第に製品の強みが失われてしまい、「知的資産」を自らダメにしてしまう結果を招きます。

ちゃんとストーリーを把握していれば、例え経費削減を行わなければいけないとしても、研修会への参加は別だと、事業主が判断してくれれば、製品の強みを失わずにすみます。

また、研修会にただ参加させるだけでなく、その習得効果もチェックするようにすれば、技術の習得速度が向上し、さらに製品の競争力を向上させる結果が期待できます。

このように、ストーリーを意識することで、「知的資産」を維持するだけでなく強化することも考えられるようになるのです。

 

「知的資産」を効果的に経営に活かすためには、個々の「知的資産」の流れをストーリーとして捉えることがとても大切だと、お分かりいただけたのではないかと思います。

 

 

 

「知的資産」を活かす経営

これまで「知的資産」とはどういう性質の資産なのかということをお伝えしてきました。

資産は有効に活用してこそ価値があります。そこで、「知的資産」を経営に活かすにはどうすればいいのかを考えてみましょう。

 

例えば、”競合他社製品と比べて2倍の耐久性能を持つ製品”という「知的資産」を持っているとします。

ひとつのアイディアとしては、これを宣伝文句として用いて製品のプロモーションを強化することが考えられます。

別のアイディアとしては、耐久性が求められる市場に特化していくということも考えられます。

他にもいろいろなアイディアが生まれてくるでしょう。

これらに共通していることは、「知的資産」であらわされる”特徴”を活かして”強み”に変え、売り上げを伸ばすことを画策している点です。

 

”ある従業員が高いクレーム対応能力を持っている”という「知的資産」を考えてみましょう。

クレーム対応能力は、企業のアフターサポートをはじめとするサービス品質の向上に繋がります。

経営に活かすひとつの方法としては、従業員のやり方を分析整理してマニュアル化し、他の従業員でもある程度の対応力がつけられるようにすることが考えられます。

別の手としては、その従業員を特別サポート要員として困難な案件のみ対応させることとし、対応業務全体での効率化を図るということも考えられます。

これらも、「知的資産」という”特徴”を”強み”に変え、企業の価値向上を図る取り組みとなります。

 

このように、「知的資産」を単なる”企業の特徴”に終わらせず、”企業の強み”となるように工夫することが、「知的資産」を経営に活かすことにほかなりません。

そして、そのやり方には決まった解はないのです。

企業の置かれている状況、「知的資産」の特徴の程度、人的要素、環境その他さまざまな要因で、取るべきやり方が違ってきますし、経営者自身の好みに左右されることもあります。

ただ、ひとつだけ共通することがあり、こうした対応は直接的にせよ間接的にせよ「企業の利益拡大」に貢献しているということです。

 

例えば、先の”クレーム対応能力の高い従業員”の場合、単に「わが社にはクレーム対応能力の高い社員がいる」と宣伝したところで、「企業の利益拡大」に繋がるとは思えません。

これでは「知的資産」を経営に活かせていないことになります。

 

「利益拡大」に繋がるよう「知的資産」を”企業の強み”に変えていくこと。

これが「知的資産」を経営に活かすコツです。

 

 

 

「知的資産」を「主体」で分類する

「知的資産」を、”誰が、何が”という「主体」に着目して分類すると、以下のようになります。

 

■人的資産

特定個人が持つ知識、経験、ノウハウ、スキル、対応力など、ある特定の個人が主体となる「知的資産」を「人的資産」と呼びます。

人的資産は、その特定個人以外に広げることが困難であるとともに、その特定個人がいなくなると、その企業から失われてしまうというリスクがあります。

 

■構造資産

組織に根付いた企業文化、データベース、ナレッジや、一個人を離れ権利化された特許権など、組織が主体となる「知的資産」を「構造資産」と呼びます。

そのほとんどは、もともと「人的資産」だったものであり、それらが組織で共有化された資産ともいえます。
構造資産は特定個人に依存していないため、横展開がしやすく比較的長く企業に保持されるという特徴があります。

 

■関係資産

顧客との関係、取引関係などのように、企業の対外的な関係に起因する「知的資産」を「関係資産」と呼びます。

関係資産も、もとは特定個人の力による「人的資産」だった場合も多く、その関係を維持、発展させることが組織として価値があると認められはじめて「関係資産」となります。

関係資産は、自社以外の利害関係者との関係で成り立つものであり、なにかのきっかけで突然消失してしまうリスクがあります。

 

このように、主体によって「知的資産」の損失リスクが大きく異なってきますが、この主体自体を変更することも可能なのです。

 

例えば、従業員Aさんが個人的な能力で行っていた営業活動のノウハウを整理しマニュアル化することで、営業部門全体のノウハウとすることができます。

その結果、仮にAさんが企業からいなくなったとしても、Aさんのやり方は組織に残り「知的資産」として活用することが可能となります。

これが「人的資産」の「構造資産」化です。

 

同じく、Bさんの個人的な人脈で成り立っていた取引関係を、企業間で正式に取引契約を締結することで、Bさんに依存することなく「知的資産」として企業が活用することが可能となります。

これが「人的資産」の「関係資産」化です。

 

なにかのきっかけでその「知的資産」を失うと、企業の存続にも関わってきますので、企業としては「人的資産」よりも「構造資産」もしくは「関係資産」であるほうが、損失リスクが低く望ましいのです。

 

もちろん「知的資産」は知的活動に起因しますので、主体が変わればその性質も同一とはいきません。

Aさんの営業ノウハウをマニュアル化しても、CさんがAさんとまったく同じように営業できる訳ではありません。ですが、仮にAさんがいなくなったとしても、Cさんがある程度Aさんと同じような営業活動できるのであれば、企業としてはAさんの営業ノウハウを100%失うという事態にはならずにすむ訳です。

 

このように、「知的資産」を考えるうえで、「主体」で分類することは極めて重要です。